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雅楽の拍子はなぜ伸びる?
「ええか、拍子が4拍めから1拍めに返ってくるときは、伸びるんや」 「なんで、伸びるんですか」 「笙の手移りが入ってやな……とにかく、伸びるんや!」 私が雅楽を始めたのは、大学で雅楽部に入ってからのことです。最初に習ったのは「越殿楽」でした。先輩の説明では、この曲のテンポは「早四拍子」と言って、洋楽でいうところの4分の4拍子に相当するとのことでした。しかし、ただの4拍子ではなく、4拍めから次の小節の1拍めに返ってくるときに拍子が少し伸びるいいます。ならば、どのくらい伸びるのかと思って、先輩の演奏を注意して聴いていると、一回一回伸び方が違うではありませんか。私は、この「拍子が伸びる」という説明が納得いきませんでした。 雅楽部に入ったのは、雅楽が好きでたまらなかったから、というわけではありませんでした。だから、“そんないいかんげんなことを言ってるから、雅楽はメジャーじゃないんだ”などと、心の中で思っていました。
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その考えが変わったきっかけは、ある合宿の時のことでした。講師は昔からクラブがお世話になっている元宮内庁楽師のS先生でした。練習中、話題は拍子のことになりました。 「おまえたち、数人で重たいものを持ち上げるときに、掛け声をかけるだろ。なんて、掛ける?」 「いちにぃの〜さん! とか、せえの〜で〜ヨイショ! とか言います」 「そうだろ。『いちにぃの〜』の『の〜』と、伸びるだろ。これが英語なら、『ワン、ツー、スリー!』と、等間隔だ。ところが日本では、『いちにぃの〜』と伸びる。雅楽の拍子の伸びるところは、この感覚と同じものなんだ」 先生のおっしゃる意味はこうでした。雅楽の拍子の伸びる個所は、ただ伸ばしているのではなく、その場所に来るべくして伸びているということ。そして、その感覚は日本人なら、体の中に持っているということ。 雅楽のリズムが自分の体の中にもある!?――本当だろうかと疑う半面、「いちにぃの〜」の例えには、妙に納得させられるものがありました。 ◆
その後、先生の言葉を意識しながら練習を重ねていると、確かに何か感じるものがあります。 「イチ、ニィ〜、サン、シィ〜〜〜イチ、ニィ〜、サン、シィ〜〜〜イチ……」 この単調なリズムの繰り返しに、いつしか揺られている自分に気づきました。海で、少し沖まで泳いでいって波間に身を任せて気持ちよく浮かんでいるときのような、そんな感じでした。 それからは、目の前に新しい世界が開けたような気がしました。それまでは関心がなかった日本の古典音楽や芸能に、好んで目を向けるようになりました。聴く音楽のジャンルも、ポップスやロックだけだったのが、民族音楽、クラシックなどあらゆる方面へ広がっていきました。そして、他の音楽や芸能を知れば知るほど、雅楽の奥深さが身に染みてくるのでした。いまでは、すっかり虜になっています。みなさんも雅楽、始めてみませんか。 (by joei)
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