【十二律】

「雅楽には、洋楽のような音律はあるの?」
 初めて雅楽に触れた方が持つ疑問の一つが、これではないでしょうか。
 答えはイエスです。1オクターブを半音ずつ12に分けたもので、「十二律(じゅうにりつ)」と呼んでいます。現在、日本で用いられている十二律は日本で作られたものですが、その元となった考えは、およそ3000年前に中国ですでに確立された楽理にあります。
 古代中国(周時代)の十二律の決め方は、次の通りです。まず、長さ9寸(27.2センチ)、直径3分3厘3毛(1.02センチ)の竹筒を用意し、下部を閉じて吹き鳴らした音を基準とします。次に、その長さの3分の1を取り去って、音を得ます(その音から数えて8音上の音になる)。さらに、その長さの3分の1を加え、音を得ます(その音から数えて6音下の音になる)。この作業を交互に繰り返して、12の音を決めるのです(「三分損益法(さんぶんそんえきのほう)」。日本では「順八逆六(じゅんぱちぎゃくろく)」といいます)。
 この方法で得た音は、実際にはズレが生じるので、それぞれの音の間を微妙に調節して、各音が協和するようにして用いていたといいます。これを「楽律」といいます。
 この方法が中国から伝わってのち、日本でも独自の方法で十二律を求めるようになりました。
 その方法とは、上記の三分損益法(順八逆六)のほかに、「順六逆八」というもう一つの方法を併用するものです。基音(壱越〈D〉)から、まず「順八逆六」で、8音上(順八)の音を求める → 求めた音の6音下(逆六)の音を求める……この作業を交互に繰り返して五つの音を得ます。次に「順六逆八」で、基音から6音上(順六)の音を求める → 求めた音の8音下(逆八)の音を求める……この作業を交互に繰り返して六つの音を得ます。これで、基音と合わせて合計12の音が得られます。
 12の音にはもともと中国の音名がありましたが、平安時代に行われた「楽制改革」(外来音楽とその楽理の日本化)の際に、日本名に改められました。
 それぞれの音は、洋楽の音名に下図のように対応させることができます。ただし、雅楽のピッチには時代によって変遷があるので、まったく同じ音という訳ではありません。現在では、黄鐘(おうしき・A)を430ヘルツと定めて演奏しています。

【五声・七声】

「ドレミファソラシド」(階名)に当たるものとしては、「五声(ごせい)」があります。「宮(きゅう )」「商(しょう )」「角(かく)」「徴(ち)」「羽(う)」の5つで、これに「変宮」と「変徴」、あるいは「嬰商」と「嬰羽」の2音を加えたものを「七声(しちせい)」といいます。「変」は「♭」を、「嬰」は「♯」を意味します。これを十二律に当てはめて、さまざまな音階を得ます。
「五声・七声」が洋楽の「ドレミ」と違うのは、「宮」「商」などの言葉を唱えてメロディーを歌ったりしないことです。音階を定めるためにのみ使います。
 古代中国では、「七声」を十二律に当てはめて、理論上、84もの調を作っていました。唐の時代に伝来して日本の雅楽の元になった「燕楽(えんがく)」には、このうち28調が用いられていました。
 日本には12の調子が伝わりましたが、その後、六つの調子(六調子)に整理され、今日に至っています。

【呂旋・律旋】

 洋楽の長音階、短音階に当たるものです。「呂旋(りょせん)」は長音階、「律旋(りつせん)」は短音階に相当します。唐楽(中国経由で伝わった楽曲)の六調子のうち、「壱越調(いちこつちょう)」「双調(そうじょう)」「太食調(たいしきちょう)」は呂旋、「平調(ひょうじょう)」「黄鐘調(おうしきちょう)」「盤渉調(ばんしきちょう)」は律旋に属します。
 これは蛇足ですが、「ろれつが回らない」という慣用句は、呂と律を吹き分けられない様を指していたのが、転じて現在の意味に用いられるようになったといわれています。