「陪臚(ばいろ)」

陪臚
 陪臚は平調(ひょうじょう)の代表的な曲で、雅楽を練習したことのある人なら初期に習うので、よくご存じの一曲だと思います。

【林邑八楽】

 このコーナーでかつて「迦陵頻(かりょうびん)」や「胡飲酒(こんじゅ)」の時にも書きましたように、「蘭陵王(らんりょうおう)」などとともにこの「陪臚」も林邑八楽(りんゆうはちがく)のひとつに数えられます。
 林邑八楽は、天平8(736)年にインドの僧・婆羅門(ばらもん)僧正と林邑(ベトナム)の僧・仏哲(ぶってつ)が四天王寺の楽人に伝えたといわれています。当然、唐楽ですから舞は左方になるのでしょうが、「陪臚」は、右方の舞楽に分類されています。「抜頭(ばとう)」「還城楽(げんじょうらく)」にも左右の舞楽があります。
 これらの曲に共通するのはその特殊な変拍子(夜多羅拍子〈やたらびょうし〉)です。夜多羅拍子を編み出したのはどうも四天王寺の楽人たちではないか。「蘇莫者(そまくしゃ)」も含めて夜多羅拍子の曲は四天王寺で伝承された舞楽ですから、それらはもともとは左の舞であったものを右方にリメイクしたのではないか、といわれています。説得力のある説だと思います。(東儀俊美『雅楽縹渺』参照。なお、迦陵頻、胡飲酒、蘭陵王については曲目解説をご覧ください)

【五破陣楽】

 また、陪臚は五破陣楽(ごはじんらく)の1つに数えられることがあります。五破陣楽とは、陪臚(破陣楽)、秦王(しんのう)破陣楽、皇帝(おうだい)破陣楽、散手(さんじゅ)(破陣楽)、太平楽(たいへいらく)(武将〈武昌〉破陣楽)の五つの破陣楽をいいます。
 破陣楽というのは,中国唐代の文官の装束で舞う平舞・文舞(ぶんのまい)に対して、太刀をはいて、鉾(ほこ)や楯(たて)などの武器をもって勇壮に舞う武舞(ぶのまい)をいいます。

【雅楽が日本にやって来るまで】

 雅楽が日本に伝わったのはいつごろなのでしょう。「日本書紀」に453年に百済(くだら)から、允恭(いんぎょう)天皇崩御に際して葬送のために新羅王が80人の楽人を遣わした、と書かれてあって、これが文献に残っている最古の記録と考えられています。
 おそらく当時、雅楽のような音楽以外の文化も朝鮮半島から次々やってきておりました。文化は人がもってくるわけですから、人的な交流が盛んに行われていたことを意味します。今日のように飛行機でひとっ飛びというわけにはいきません。かなりの時間をかけて、あるいは移り住むことを前提に渡来したものと考えられます。そして長い時間をかけてそれらを伝授されたのです。
 607年に遣隋使が派遣され、中国からもその音楽を学んだものが帰国してます。おそらく中国からも音楽家が渡来していたでしょう。そして新羅王が80人の楽師を派遣してから、約250年後、大宝律令で701年に雅楽寮(うたまいのつかさ)が設置され、日本の雅楽が確立され、林邑八楽の1つとして「陪臚」も伝授されたのです。そうした前史にも思いを巡らせたいですね。

【陪臚の装束】

 余談が長くなりました。ご承知のように、「陪臚」は管絃では只拍子(ただびょうし)で演奏されます。《2+4》拍子です。
 一方、舞楽では夜多羅拍子で奏でられます。《2+3》拍子です。唐楽であるので鳳笙を入れて演奏されますが、舞は右方に属します。四人舞で、右舞ですが赤系統の金襴ベリの裲襠(りょうとう)、頭には老懸(おいかけ)に冠の額のところを赤く塗った巻向冠を用います。袴(はかま)の裾(すそ)を紐(ひも)で指貫いてふくらませる「指貫(さしぬ き)の袴」をつけて、袍(ほう)を着て太刀をはき、足には絲鞋(しかい)を着します。左方の「打球楽(たぎゅうらく)」と同じ装束です。平安時代の近衛の武官の乗馬の服装だと言われています。

【陪臚の構成】

 最初に古楽乱声(こがくらんじょう)、または平調の調子が奏されます。右手に鉾(ほこ)、左手に楯(たて)を持った舞人が舞台右から登場します。登場した舞人は、向かいの舞人同士で楯を立てかけ、鉾は舞台上に置きます。「陪臚破(ばいろのは)」が奏されます。さらに急は沙陀調(さだちょう)の音取につづいて「新羅陵王急(しんらりょうおうのきゅう)」が演奏されます。曲の半ばで太刀が抜かれます。後半で鉾と楯を持って舞います。最後は、舞人が一直線になって舞いながら入ります。

 前回紹介された舞楽「青海波(せいがいは)」も「輪台(りんだい)」が序として使われていました。「長保楽(ちょうほうらく)」では「保曾呂具世利(ほそろくせり)」が破ととして、「賀利夜須(かりやす)」を急として用いられます。舞楽「陪臚」の曲構成もこれらと同様、『体源抄(たいげんしょう)』に「二曲を以て一楽と為す」として解説されているものです。つまり、上記の通 り陪臚(破)→新羅陵王急(急)という順番に奏されます。ちなみに「三曲を以て一楽と為す」ものには、「太平楽」「賀殿(かてん)」があります。

【陪臚の特色】

 舞楽「陪臚」の特色は、鉾とと楯を用いる点がありますが、舞の所作として見逃せないのは「剣印」、すなわち「印を結ぶ作法」でしょう。「蘭陵王」「散手」「打球楽」「貴徳(きとく)」「狛桙(こまぼこ)」「太平楽」「還城楽」「抜頭」にも使われていますが、「陪臚」のそれがいちばん印象的に残ります。(by #やまさん)
・・・質問などありましたら#やまさんまで