「還城楽(げんじょうらく)」

還城楽
  舞楽には、「右舞(うまい・右方)」と「左舞(さまい・左方)」があります。違いを簡単に説明すると、左方は中国経由伝来曲(唐楽)のスタイルで、舞台左側から舞人が登場し、右方は朝鮮半島経由伝来の曲(高麗楽)風で、舞台右側から舞人が登場します。今月の一曲「還城楽」は、その両方、左方にも右方にもある舞楽です。

【曲の由来】

 還城楽は、唐楽曲で、太食調、中曲、早只八拍子(はやただやひょうし)、拍子十八、古楽。林邑楽(りんゆうがく)系に属する。
 一般に、舞楽の舞人の動きは、抽象化されたパターンの組み合せによって構成されているものが多いようです。とくに「萬歳楽」のような平舞はその特長が顕著です。しかし一方、走舞には、具体的な人間や動物の動きを模写 したものがあります。還城楽もそうしたもののひとつです。
 一説によると「還城楽」という曲名の由来は、「見蛇楽(ケンジャラク)」が転じたもの。中国の西方に住む人が蛇を好物として食べたので、蛇をみつけてよろこぶありさまを舞にした(『雅楽鑑賞』)とも、「ヴェーダ神話の抜頭(Pedu)王が退治された悪蛇を見て歓喜勇躍する様を表す」(『広辞苑』)とも言われています。蛇を見つけて、それを捕獲する、そして喜ぶ様を舞うというものですから、見れば、何を舞っているのかよくわかります。

【曲の構成】

 舞人が舞台に登場する前に、龍笛の独奏で小乱声(こらんじょう)が奏されます。つづいて陵王乱声(りょうおうらんじょう)。打物だけで始まり、龍笛の追吹き、それが止んで打物の演奏をバックに舞がつづき、吹き止め。還城楽音取(ねとり)。さらに当曲(還城楽)を奏して、龍笛の安摩乱声(あまらんじょう)で退出する、そのような構成になっています。右方、左方のちがいは、この当曲部分で、左方は只拍子、右方は夜多羅拍子(やたらびょうし)で舞われる点です。

【見所・聴き所】

  舞の見所は、当曲にもありますが、陵王乱声にもポイントがあります。ドン、ドン、ドン、ドンと太鼓、テンテン、スッテンテンと羯鼓(あるいは三ノ鼓)が同じパタンのリズムを演奏します。そのリズムにのって舞人が登場、舞台を回転しながら舞を続けます。そのうち、舞台中央にとぐろを巻いた木製の蛇の模型が運び込まれます。舞人がこれを見つけて大喜びします。そこで、それまで鳴り続いていたリズムのパターンが変わります。これを「鹿婁(ろくろ)」と呼びます。この部分が見所。そしてそのクライマックスで、音取、つづいて当曲が舞われます。

 管絃の音取は、いずれの調でも、鳳笙の合竹(あいたけ)から始まって、篳篥がつけ、その終わり頃に龍笛が演奏をはじめ、打物(羯鼓)が加わりさらに琵琶と箏と演奏に加わって終わるのですが、舞楽の音取はちょっとスタイルがちがいます。この「還城楽音取」は、鳳笙の合竹で始まるのは管絃と同様ですが、そのあと、篳篥と龍笛がほぼ同時に加わり、ゆったりした篳篥の旋律と、繊細な動きの龍笛、さらに打物(羯鼓あるいは三ノ鼓)が同時進行的にからむところにその醍醐味があります。この三管・一鼓の息使いに耳を傾けましょう。

【右方・左方と夜多羅拍子】

  同一曲が、右方にも左方にもあるという舞楽曲には、この番舞「抜頭(ばとう)」が有名です。「還城楽」同様、右方は夜多羅拍子、左方は只拍子で舞われます。また、陪臚(ばいろ)は管絃では唐楽、只拍子で演奏されますが、舞楽は右方に属し、夜多羅拍子で舞われます。夜多羅拍子で演奏される舞楽は必ず右方かというとそうでもないようです。「蘇莫者(そまくしゃ)」は管絃では只拍子、舞楽は夜多羅拍子で舞われますが、左方の舞楽に属すると考えるのが一般 的です。

(by きっさん)
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