「迦陵頻(かりょうびん)」

迦陵頻
「迦陵頻」は、「万秋楽(まんじゅうらく)」「安摩(あま)」「胡飲酒(こんじゅ)」「陪臚(ばいろ)」「抜頭(ばとう)」「菩薩(ぼさつ)」「蘭陵王(らんりょうおう)」とともに林邑八楽(りんゆうはちがく)と呼ばれています。林林邑とは、ベトナム地方一帯、または昔の王国の呼び名です。
 現在は、壱越調(いちこつちょう)に入っているのですが、もともとは沙陀調(さだちょう)の曲です。唐楽。「破」中曲、延八拍子、拍子八。「急」小曲、早八拍子、拍子八、古楽。

【曲の由来】

「迦陵頻」は、「迦陵頻伽」の略。サンスクリットkalavinka の音訳で、インドの神話に登場する美声で鳴く鳥。妙音鳥・好声鳥と意訳されることもあるそうです。卵の中にいるうちから鳴きだすともいいます。仏教では、極楽浄土で法を説く鳥とされ、美声ゆえに仏の声とも言われます。その姿は、人頭鳥身、美術作品としては、上半身が翼をもつ菩醍形下半身が鳥の姿で表されます。

【渡物(わたしもの)】

> 壱越調では「迦陵頻」ですが、その他の調に移調されたもの(雅楽では「渡物(わたしもの)」と呼びます)は、「鳥」と称されます。双調(そうじょう)に「鳥急(とりのきゅう)」「鳥破」、黄鐘調(おうしきちょう・もとは水調)に「鳥急」がありますが、これらは壱越調からの渡物です。同様の例は、枚挙に暇がありません。たとえば、平調(ひょうじょう)・黄鐘調・盤渉調(ばんしきちょう)の越殿楽(えてんらく)は有名ですね。
 双調には曲数が少ないこともあって、壱越調から多数の渡物があります。颯踏(さっとう)、入破(じゅは)、新羅陵王(しんらりょうおう)、賀殿(かてん)、武徳楽(ぶとくらく)、北庭楽(ほくていらく)、陵王(りょうおう)、酒胡子(しゅこし)、胡飲酒破(こんじゅのは)などがそうです。盤渉調「青海波(せいがいは)」も、「輪臺(りんだい)」とともに、もとは平調であったのを盤渉調に渡されたと言われます。「蘇合香急(そこうのきゅう)」、「青海波」、「千秋楽(せんしゅうらく)」は、いずれも盤渉調から黄鐘調への渡物です。
 高麗楽にはその例はないようですが、高麗平調の唯一曲「林歌(りんが)」は、『體源鈔(たいげんしょう)』『楽家録(がっかろく)』にそれぞれ別 の作者名が記されていたり、曲の拍子数が違っているのですが、その旋律パターンを見比べると唐楽管絃の平調「林歌」の渡物のようにも思えるのですが、渡物というより、似せて作られた作品なのでしょうか。どなたか教えていただけたら幸甚です。

【装束と舞振り】

「迦陵頻」は、高麗壱越調の「胡蝶(こちょう)」とともに、言わずと知れた童舞(わらべまい)の代表です。幼い子供の舞人四人。「祇園精舎の供養の日に極楽にいるといわれている、めでたい迦陵頻伽という霊鳥が飛んできて舞ったありさまを妙音天が舞とした」(『雅楽鑑賞』)と言われます。
 頭に紅梅を挿した天冠、美しい鳥の羽を背負って、銅拍子(どびょうし)を両手にもってこれを鳴らしながら舞います。「林邑乱声(らんじょう)」で入場し、出手(ずるて)を舞います。「迦陵頻音取」につづいて「急」が奏され、最後に四人の舞人が舞台を一周して退出します。なお、壱越調には(双調にも)「破」がありますが、舞楽では演奏されません。童舞だからでしょうか。また「迦陵頻急」は、壱越調「賀殿」の道行として演奏されます。

【舞楽と渡物】

『雅楽鑑賞』に、昭和41年芸術祭に日本雅楽会が松平頼則氏に委嘱して「荒城の月」を雅楽用に編曲、越殿楽の渡物の技法を使って、それを盤渉調と黄鐘調に渡したものを初演したことが記されています(101ページ)。一度聞いてみたいですね。これについての情報をどなたかお持ちでしたら、お教えください。ちなみに松平氏は、先月(10月)、90余年の長寿をまっとうされたようです。
 手前みそになりますが、かつて、おやさと雅楽会が、黄鐘調と盤渉調の「青海波」をひとつにして演奏したり、本来壱越調である「胡飲酒破」や「陵王」を、双調に渡したものを使って舞楽を舞うというおもしろい試みを行ったことがあります。渡物は、洋楽の移調とは違ったおもしろみがあって、いつもとは違った趣向を味わえて、おもしろいですね。話は、横道にそれてしまいそうです。今回は、舞楽「迦陵頻」の紹介かたがた渡物について記して、お茶を濁しました。
(by #やまさん)
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